マティアス・グリューネヴァルトは16世紀の画家です。彼の祭壇画「キリストの磔刑」は聖アントニウス修道院に置かれていました。そこには見るに堪えないほど苦しむキリストの姿が描かれており、側に立つバプテスマのヨハネがキリストを指さして、「見よ、世の罪を取り除く神の子羊」「あの方は栄え、わたしは衰えねばならない」と告げているのです。
当時ヨーロッパでは「アントニウスの火」と呼ばれる疫病が流行っており、この修道院も収容施設となっていたため多くの病人が運び込まれました。激しい痛みに苦しむ彼らはこのキリストの磔刑図を見ながら、「キリストも私たちと一緒に苦しんでくださっている。いいえ、彼の苦しみは私たちの苦しみよりはるかに大きい」と思って苦しみに耐える力を得たのではないでしょうか。
ところがこの祭壇画には素晴らしい仕組みがありました。磔刑図が描かれた画面を観音開きの扉のように左右に開くと、そこには復活のキリストの姿が現れるのです。日曜毎に開かれる復活のキリストを目にして、病む人々は「復活のキリストはきっと自分たちにも新しい命をお与えくださる」と確信したのではないでしょうか。(踊)