老年は、人生のなかで、一番貴重な時で、もっとも永遠にちかづいている時です。老いることには、二通りあります。いつもいらいらして不平をいい、過去と幻想にとらわれていて、自分のまわりで起こることをみな批判する生き方です。若者は駄目だと退け、自分の殻に閉じこもって、ただ悲しんだり、寂しがったりする人たちです。
もう一つの生き方は、子供の心をもつ老人になることです。今までの役目や責任から解放されて、自由になったので、新しい青春を見い出すことができます。彼らは、子供のようになんでも不思議がる好奇心とともに、成熟した人間の知恵を持ちあわせています。…彼らの心は、自由でのびやかで、自分たちの限界も弱さも心得ているので、彼らの光り輝く存在は、共同体全体を明るく照らします。彼らは、優しくて、憐れみ深く、同情心とともに、赦しの心のシンボルでもあります。彼らは共同体の隠れた宝であり、一致とともに、生命の源泉です。
(大塚野百合『老いについて』の中にあるジャン・バニエの「老年」より引用しました)