「香油と銀貨」
マタイ26章には一人の女性が主イエスに香油を注いだ話と、イスカリオテのユダが主イエスを銀貨30枚で売り渡した話が記されています。この二つを並列して読むと、福音書記者の意図が一層はっきりしてきます。
ベタニアで無名の女性が主イエスの頭に高価な香油を注ぎました。この女性の主への精一杯の感謝でした。しかし弟子たちは「なぜ、こんな無駄使いをするのか。高く売って、貧しい人々に施すことができたのに」と憤慨し女性を厳しく咎めました。ヨハネ福音書では叱責したのはイスカリオテのユダと記しています。しかし主イエスはこのことをご自身の葬りの用意と意味づけられ、価値ある記念になると言われたのです。
これに続いてマタイは、ユダが主イエスを敵に銀貨三〇枚で売り渡す約束をしたと記しています。「そのときから、ユダはイエスを引き渡そうと、良い機会をねらっていた」。
主イエスの深い愛に対し愛をもって応答するか、裏切りをもって返すのか、「あなたはどちらですか」とマタイは静かに問うているのです。