「一粒の麦、地に落ちて死なずば」
福音書は、長い序文を持った受難物語である(マルティン・ケーラー)と言われます。イエス・キリストの十字架上での死と、その後の復活顕現という聖書が語る証言に、わたしたちの救いの根拠が示されています。その意味で、十字架はキリスト教信仰の原点でもあります。「十字架の神学」という言葉があるくらいです。
ヨハネ福音書の御言葉「一粒の麦、地に落ちて死なずば一粒にてあらん。死ねば多くの実を結ぶべし。」(文語訳)は、よく知られた聖句です。それは、直接には主の十字架上の死と復活により起こされていった、多くの救いの業を指していると解釈されます。イエス・キリストの十字架の死と復活、それにあずかることによって、わたしたちは罪赦され、新しく生かされていく者とされています。
現在ヒットしている映画『レ・ミゼラブル』の主人公ジャン・バルジャン。彼は、魂の闇と混沌の中で、十字架に示された神の深い愛に出会い、その生涯における魂の一大方向転換をさせられたのでした。彼の生涯こそは、地に落ちて死んだ一粒の麦であったのです。
受難節の礼拝に、十字架の出来事に示された神の御愛に共に与りたいと願います。(松田和夫)